アッテネータの製作
図1
(02/02/19)さて、具体的に市販の抵抗を当てはめてみましょう。高周波特性が良く精度の高い(±1%)金属被膜抵抗を使います(@20)。E24系列という数字配列のものが通販のサトー電気で手に入ります。下の表でR1とR2と書いたのは計算から得られた値です。そして R1/E24系列、R2/E24系列と書いたのは市販の抵抗を当てはめたもので、その右に計算値との誤差を示しました。まあなんとか±5%以内に入っているようです。
参考文献にした「アンテナ調整ハンドブック 角居洋司著」では、1,2,4,8,16,32,64dBという組み合わせで127dBを7つのスイッチで実現しています。しかし私が今回製作しようとしているものは8つのスイッチで120dBをカバーし、減衰器は切りの良い値を使いました。どうも暗算が苦手なので10進の方が頭の中が混乱しなくて済みそうと思ったからです(hi)。
表1
db
r1計算値
r1/e24系列
誤差(%)
r2計算値
r2/e24系列
誤差(%)
1 5.77 5.6 -3.04 869.55 910 4.45
2 11.61 12 3.25 436.21 430 -1.44
3 17.61 18 2.17 292.4 300 2.53
4 23.85 24 0.62 220.97 220 0.44
10 71.15 68 -4.63 96.25 100 3.75
20 247.5 240 -3.13 61.11 62 1.44
30 789.78 820 3.69 53.27 51 -4.45
50 7905.62 8200 3.59 50.32 51 1.33
製作に関しては抵抗を直接ケースにアースする事が高周波特性を良くする意味で必要なのですが、といって銅版でケースを作るのは大変そうなので、ここではよく製作事例のあるプリント基板を使おうと思います。
アッテネータの設計図(02/02/22)
図2
さてどーやって作るかですが
ケースはベークのプリント基板を半田付けして作り、開口面はアルミの板で蓋をする。
スイッチは秋月で買った6Pスナップスイッチ(@100)。取り付けピッチは16mm。
10dB以上の減衰器部分はシールドする。
入出力はBNCコネクタ。
抵抗は金属被膜抵抗(E24系列 誤差1%)
高周波特性からもスイッチ間の配線は極力短くしたいです。しかし半田付けスペースチェックのためボール紙で仮にケースを作り、隅っこまで半田ごてが入ることを確認しました。
画像1
プリント基板で箱を作る(02/02/24)
画像2 画像3 画像4
ベーク製のプリント生基板から箱を作る部材を切り出し、クレンザーとスチールたわしで銅箔面を磨きました(画像2)。
箔面を内側にして部分的に半田で仮止めして寸法を確認し、それが終われば全周を半田付けします(画像3)。
スイッチ、コネクタ、蓋を取り付け、レタリングを施しました(画像4)。
精度の向上(02/03/02)
アッテネータに使う抵抗はE24系列から計算値に近いものを選んでいますが、誤差は最大で-4.63%となっています。更に精度を上げようと思えば2本の抵抗を並列接続するやり方があります。そんな時、私のHPを見て下さっている方から合成抵抗値を求めるソフトをいただきました。欲しい抵抗値を入力すると、E24系列の中から自動的に組み合わせを数種類考え、誤差まで表示してくれます。例えば71.15Ωの場合、91と330で71.33となり誤差は0.25%になります。ただ抵抗の数が倍必要になるため、誤差の多い部分で利用する方が良いかも知れません。表2に並列接続した場合のベスト値を示します。抵抗の組み合わせは計算値に近いものと高抵抗を組み合わせることで精度の高い合成値が求められる傾向にあります。
表2db r1計算値 r1a r1b r1a,r1b並列 誤差(%) r2計算値 r2a r2b r2a,r2b並列 誤差(%)
1 5.77 6.2 82 5.764 -0.1 869.55 910 20000 870.397 0.1
2 11.61 12 360 11.613 0.03 436.21 510 3000 435.897 -0.07
3 17.61 18 820 17.613 0.02 292.4 300 12000 292.683 0.1
4 23.85 24 3900 23.853 0.01 220.97 390 510 221 0.01
10 71.15 91 330 71.33 0.25 96.25 100 2700 96.429 0.19
20 247.5 270 3000 247.706 0.08 61.11 75 330 61.111 0
30 789.78 820 22000 790.534 0.1 53.27 56 1100 53.287 0.03
50 7905.62 8200 220000 7905.346 0 50.32 51 3900 50.342 0.04
アッテネータの高周波特性(02/03/03)
図1、表1の値で作ったアッテネータの高周波特性を調べます。送信機→アッテネータ→QRPパワー計(fcz#196)という接続です。送信機として使った18MHz機はFUJIYAMA、144は自作機です。アッテネータのスイッチを全てOFF(0dB)にした時の出力を1Wに設定しました。結果18MHzにおける測定値はほとんど計算値に一致していますが、144MHzになると10~20%の誤差が観測されました。また10dBのスイッチ1つと、1+2+3+4dBのスイッチ4つとの比較では18MHzで5%、144MHzで10%ほど低い値が示されました。ただし私が持っているFCZ研#196のQRPパワー計は1.8~60MHzが測定範囲で、144MHzでは測定値を信用するなと取説に書いてあり、この誤差がどちらの原因によるものかは特定できません。寺子屋シリーズ#206のQRPパワー計は1~440MHzまで計測可能ですから、これを求めることが必要になりますね。
図3
表3 FCZ#196で測定(50dBは計測不能のため測定していません)db 計算値 18MHz 144MHz
0 1000 1000 1000
1 794 800 780
2 631 630 590
3 501 500 450
4 398 390 320
10 100 100 90
20 10 10 9
30 1 0.5 1
FCZ#206QRPパワー計による測定(02/03/09)
FCZ#206のQRPパワー計(キット)を作りました。1.9~440MHzで±1dBの誤差という性能で、#196に比べると両面基板にチップ抵抗を使い、いかにも高い周波数を意識した作りになっています。送信機→アッテネータ→QRPパワー計という構成で周波数特性を測ってみると、なんと#196とほとんど同じ傾向になりました。#206の性能を信じればアッテネータの周波数特性が悪いという事になり、これはガックリです。考えられる対策としては
アッテネータのスイッチをつなぐスズメッキ線を銅板に代える。
段数を減らす。
抵抗の並列接続でインダクタンスを下げる。
配線部分は両面基板とし、チップ抵抗を使う。
といったところです。
FCZ#196 FCZ#206
図4
(02/03/10) さて高周波特性改善の第1弾として、配線用のφ0.6スズメッキ線17箇所(全長92mm)を幅3mm、厚さ0.3mmの銅板に替え、スイッチの端子を巻くように半田付けしました。その結果が表4です。なんとビックリ! 高周波特性が18MHz並みに改善されているのです。配線部分の表面積は約3.5倍になったわけで、いわゆる表皮効果が明白にあらわれています。これでほぼ計算値に近い減衰量となりました。ちなみにFCZ#196で測っても#206とほぼ同じ値が測定されました(表5)
スズメッキ線を銅板に変更
表4FCZ#206で測定
db 計算値 18MHz 144mhz(0.6スズメッキ線) 144mhz(銅板)
0 1000 1000 1000 1000
1 794 800 750 800
2 631 630 550 620
3 501 520 420 500
4 398 400 300 400
10 100 100 90 100
20 10 9 10 10
30 1 1 1 1
表5 FCZ#196での再測定(アッテネータは銅板配線)fCZ#196
db 計算値 144mhz(銅板)
0 1000 1000
1 794 800
2 631 620
3 501 520
4 398 400
10 100 100
20 10 10
30 1 1
スズメッキ線を銅板に替えようと思ったのは、CQ誌のバックナンバーに「430MHzFOX用アッテネータ」という記事があり、そこでは両面基板とチップ抵抗が使われていました。「面」で配線するというヒントがそこにあったわけで、それを試したことになります。144でこのような結果が出たのは、私にとって非常に貴重なデータです。「高周波では太くて短い配線を心掛けよ」とはどこにも書いてありますが、具体的に144でこうなるというデータによる体感は初めてのことで、こんな事が分かるから実験は止められません。今後のリグ作りの良い基礎データになります。
抵抗のシールド(02/04/09)
落書き帳にJA9TTT/1加藤OMから「減衰量の多いアッテネータ部分は周波数特性が思わしくない」との経験談を書かれていました。「高周波回路設計のノウハウ 吉田武著 CQ出版」のP199には 「1セクションでのアッテネータの最大減衰量は20dBが限度」 との記述があります。原因は浮遊容量と抵抗器のL分とのことです。またFCZ誌の#112(1984/9)では、ATTの減衰量が30dBを越すあたりから誤差が増えるため、大久保OMは抵抗にスズメッキ線を巻き、シールドすることで入出力の抵抗同士の結合を回避する策をとられています。「コレ、いただき」と上の写真のように30dBと50dBの部分の抵抗にエンパイヤチューブを被せ、その上から0.5mmのスズメッキ線を巻いてグランドに落としました。SWRは50MHzで1.2、144MHzで1.4でした。こうやって徐々に改善する事で機器の性能が向上し、自作の楽しみを味わえるのは嬉しいことです。